1日3杯で万能の健康効果 「効く」紅茶の飲み方
日経ヘルスより引用
(写真:鈴木正美)
120カ国以上で愛飲されている紅茶。世界では緑茶以上に親しまれている茶葉で、健康効果の研究も世界各国で進んでいます。注目される紅茶の最新健康情報と紅茶研究家が薦める、体にいい飲み方をご紹介します。
日本はお茶といえば緑茶。しかし紅茶研究家の磯淵猛さんは「欧米で茶といえば、紅茶のことを指す」と指摘する。中国で紅茶が発見されたのは約400年前で、さまざまな歴史を経て欧米に広がり、愛飲されている。
実は、緑茶、ウーロン茶、紅茶は、同じ茶樹から作られる。風味が異なるのは、「紅茶は茶葉に含まれる酵素で酸化発酵して作られる。ウーロン茶はこの発酵が浅く、緑茶は“不発酵”茶なのです」(磯淵さん)。
この発酵が、紅茶ならではの特徴を生む。国内で紅茶に関する研究を進めるキリン飲料技術研究所の木下亜希子研究員は、「発酵を経て発生する紅茶ポリフェノールは緑茶のカテキンより分子量が多い」と話す。
近年の研究では、紅茶ポリフェノールには多様な健康効果があることが分かってきた。早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構研究院助教で管理栄養士の高見澤菜穂子さんは、「紅茶には血糖値の上昇を抑制する作用があることが分かった」と話す。パンと一緒に紅茶をとったところ、水と一緒にとった場合に比べて、有意に食後血糖値の上昇が抑制されたという。「紅茶ポリフェノールが糖の分解を促進する酵素を抑制し、腸管に吸収される糖の量が減り、血糖値上昇が抑えられたと考えられる」と高見澤さん。
紅茶に含まれる総ポリフェノール量は、100ml中、40~200mg。「食事と一緒に紅茶を1日3~4杯飲むと、生活習慣病リスクなどの軽減効果が期待できる」(高見澤さん)
■紅茶の7つの健康効果
1.食事中、食後の血糖値上昇を抑制する
高見澤さんらは下の臨床研究に加え、糖を分解する酵素と紅茶を混ぜて糖の分解反応を確かめた結果、水に比べて紅茶の方が生成されるグルコース量が少なかったという。「紅茶ポリフェノールが糖の分解を抑制した結果、吸収量が少なくなるようだ」(高見澤さん)
女性を、水を飲む群54人と紅茶を飲む群53人に分け、空腹時に15分間かけてパンと水または紅茶をとってもらい、血糖値を調べた。結果、紅茶を飲んだ群は水を飲んだ群に比べ、30分後、60分後に有意に血糖値上昇が抑制された(データ: 高見澤さん)
2.紅茶を飲むことで死亡率が下がる
米国で、5万人以上の中国人を対象とした死亡リスクを調べる疫学調査で、一度も喫煙したことのない人で紅茶の摂取量が多いと、死亡率が5~18%低くなることが分かった。また、呼吸器関連の死亡リスク、心臓や血管の病気による死亡リスクも低かった。
3.体内の炎症反応を抑え脂肪の吸収を抑制する
「紅茶は、緑茶とウーロン茶と比較し、脂質代謝酵素のリパーゼを阻害する作用があることを試験管内の実験で確認した」と木下研究員。肝臓での脂質代謝を促す酵素の働きを抑制するため、脂質の吸収を阻害する作用も期待できる。
4.高めの血圧を下げる
イタリアの臨床試験で、高血圧の患者19人が1日2回の紅茶(フラボノイド129mg含有)を飲むグループと飲まないグループに分けて血圧と血管の硬さを比較したところ、紅茶を飲んだグループは、高めだった血圧値が下がり、正常に近づいたという報告がある。
5.卵巣がんの発生リスクを抑える
英国の調査で、フラボノイド類を含む食事の摂取量と卵巣がんの関係を調査したところ、摂取量が多いほど上皮性卵巣がんのリスクが低かったという報告がある。特に、1日に2杯以上の紅茶を飲む人は、1杯以下しか飲まない人と比べ、がんのリスクは約3割低かった。
6.肌の老化を促す糖化を抑制する
肌組織のコラーゲンは、糖と結びつくことによって変性し、老化を促進する。紅茶ポリフェノールはこの「糖化」を抑制する可能性がある。「コラーゲンを用いたプレート上の研究で、紅茶がコラーゲンの糖化反応を抑制することが分かった」(木下研究員)
7.紅茶の成分がノロウイルスを消毒する
静岡県環境衛生科学研究所が、紅茶に含まれるテアフラビン類に、ノロウイルスを消毒する作用があることを発表。マウスとネコ、ブタの細胞に人のノロウイルスに近いウイルスとテアフラビン類を混ぜた液を与えた結果、感染力を約1000分の1に低減できたという。
知っているようで知らない紅茶の健康トリビア
日本でも日常的に飲まれるようになった紅茶。その種類やおいしい入れ方は、よく分からないという人も多いのでは? 紅茶専門店「ディンブラ」を経営し、30年余り紅茶に携わってきた紅茶研究家である磯淵猛さんに、正しい紅茶のいれ方について教えてもらった。
発酵時間は緑茶・ウーロン茶より長い
紅茶もウーロン茶も緑茶も同じ、ツバキ科のカメリア・シネンシスの葉から作られるが、製造工程の発酵の有無により種類が変わる。緑茶は初めに火にかけるため不発酵茶となる。紅茶は火に通さず最終段階まで発酵させるので、発酵時間はウーロン茶よりも長い。
紅茶うがいがカゼ予防になる
日本大学薬学部の研究で、緑茶にも含まれるエピガロカテキンガレートに紅茶に含まれるテアフラビンが加わると殺菌力が増し、ウイルス感染の予防に役立つことが報告されている。カップ1杯の紅茶を、5~10倍に薄めたうがいで、この効果が期待できるという。
使う水によって味が異なる
水はミネラルの含有量が多い硬水と少ない軟水に分けられる。「日本は軟水なので、紅茶をいれるとカルシウムがタンニンと結合し、渋みや香りがマイルドになる」(磯淵さん)。水はポットなどに5時間以上くみ置きしたものではなく、酸素を多く含む新鮮な水を使いたい。
■紅茶は茶葉によっても風味や作用が異なる
紅茶ポリフェノールの含有量は、栽培中の一日の温度差が大きければ大きいほど増えるという。
高見澤さんの研究では、「酵素活性の抑制作用を調べたところ、ウバとディンブラが特に高かった」という。
(左から)ダージリン:マスカットを思わせるフルーティーな香りとコクがある。別称“紅茶のシャンパン”。インドで唯一、栽培に成功した中国産の茶葉。
ウバ:爽やかなすっきりとしたミント系の香りと、青リンゴのような香りを持つ。強い渋みがあり、深い赤色が出る。ミルクとの相性が良い。
キーマン:中国を代表する紅茶。程よい渋みで濃厚な深みを持つ。熟した柿や梨のような香りがある。紫がかった深い赤色の個性的な茶葉
(左から)キャンディ:セイロン紅茶発祥の地で低い地で栽培される。味や香りに癖がなく、飲みやすい。アイスのバリエーションティーにお薦め。
ヌワラエリア:爽やかな味で濃厚な渋みがある個性的な茶葉。緑っぽい香りの中にフルーツのような甘い香りがある。ストレートで飲むのがお薦め。
ルフナ:葉が大きい茶葉。濃厚でコクのある渋みがある。深い赤色が抽出される。ミルクとの相性がよく、ミルクティーにするならこれ
(茶葉提供:紅茶専門店「ディンブラ」 神奈川県藤沢市鵠沼石上2-5-1 tel 0466-26-4340)
■基本の紅茶のいれ方
[用意するもの]茶葉、ティーポット2人用(700~750ml)か3人用(1000~1200ml)、茶こし、ティースプーン、ティーコジー(保温カバー)、砂時計(タイマーでも可)
1.ティーポットに1人分2gとプラス1杯分茶葉を入れる。
2.95℃の湯を少し高い位置から勢いよく注ぐ。
3.陶磁器の場合は、上から見て茶葉が浮かんできたのを確認。
4.保温のためにティーコジーをかぶせて約3分茶葉を蒸らす。
5.茶こしで茶葉をこしながらカップに注ぐ
ティーバッグでの上手ないれ方
お湯の量は1人分200~300ml。ティーバッグは1人分に1個。「ティーバッグが浸るように沈める。激しく揺すらないこと」(磯淵さん)。
ティーバッグを先に入れるとお湯で茶葉がたたかれて繊維質が出てしまうのでお湯を先に。ティーバッグは最初、いったん底に沈み、徐々に茶葉が水面に浮かぶ。再び浮かびあがったときがゴール
■紅茶ライフを充実させる+αレシピ
スパイスやハーブあるいは季節のフルーツと組み合わせて自由に飲み方が楽しめるのも、紅茶の魅力のひとつ。「数種類のスパイスを混ぜ合わせる、ハーブとブレンドして豊かな香りを楽しむなど、幅広い楽しみ方があります」(磯淵さん)
+シナモン&ジンジャー 冷え性対策にも役立ち紅茶の渋みも和らぐ
シナモンとジンジャーは、紅茶の香りにアクセントを加えるとともに、渋みを和らげる。体の芯まで温めてくれるので、冷え性の改善にもお薦め。「さらに牛乳(または豆乳)を加えると、なめらかな味わいになる」(磯淵さん)
+リンゴ&フレッシュミント各3~5枚 2種のポリフェノール効果で抗酸化パワーアップ
「リンゴやブドウなど、フルーツと紅茶の相性はとてもいい」と磯淵さんは太鼓判を押す。リンゴに含まれるポリフェノールとミントの抗酸化作用は肌にもいい。味もスッキリ爽やかで、紅茶が苦手な人もごくごく飲める。
+レモンピール 茶葉はキャンディがお薦め、香りが際立つピールを足す
かんきつ類の皮は紅茶との相性はバツグン。茶葉は渋みの少ないキャンディなどを選ぼう。「茶葉の量も2割ほど少なめにすると苦みが出にくい」(磯淵さん)。レモンピールは5~6秒で取り出そう。また、無農薬のものを選んで。
+ミルク&スパイス(ナツメグ、カルダモンなど) 冷え性や疲労回復にも!スパイシーなチャイ
インドで主に飲まれているチャイは、ミルクで紅茶を抽出する。そこにカルダモンなどのスパイスを加えるのが一般的だ。ナツメグやクローブなどもお薦め。温めた牛乳30mlに120mlのスパイスティーを加えれば完成。
高見澤菜穂子さん
早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構
管理栄養士
NR・サプリメントアドバイザー。08年和洋女子大学大学院総合生活研究科総合生活専攻修士課程修了。13年学術博士取得。予防医学的食品素材の研究を主に、紅茶の機能性について研究を行う。
(ライター 高橋晴美、写真 鈴木正美、スタイリング タカハシユキ)
[日経ヘルス 2016年12月号の記事を再構成]
2019-01-31 15:15:42
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